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「キャンセル品→廃棄」にしないためにデザイナーができること

こんにちは、久保です。
今回は、またまた「ファッションデザイナーが思う『サステナビリティ』の話」シリーズです。

もう随分前の話になりますが、5月の連休にバングラデシュに行ってきました。
「なんでバングラデシュ?」と思われるかもしれませんが、バングラデシュはアパレル業界の人間にとってはかなり繋がりの濃い国のひとつなんです。
僕自身はまだ発注した経験はないのですが、アパレル通販サイトなんかを見ると「原産国:バングラデシュ」との記載を見かける機会も増えていますし、実際にWTO「世界貿易統計レビュー2022」を見ると、国単体では中国に次いで世界第2位にランクしています。

ただ、「アパレル産業が成長してて、バングラデシュってめっちゃええやん」とはいかず、絶対に忘れてはいけない事件も起きました。

アパレル輸出国バングラデシュについて、忘れてはいけないこと

2010年代のこと。まだ、世の中的には「サステナブル」よりも「大量生産・大量消費・しかもできる限り安価に!」が “当たり前”の考え方になっていて、サプライチェーン(原材料の調達から消費者の手元に届くまでに関わるすべて)の末端にいけばいくほどその皺寄せや弊害が頻発していました。

名だたる大手アパレルや世界的な商社などのサプライヤーとして注文を受けていたバングラデシュの縫製工場でも、劣悪な労働環境の下、安全とは言えない場所で仕事をすることが常態化していて、2013年、ついに縫製工場ビル群の倒壊事故「ラナ・プラザの悲劇」が起こり、1000人以上の働き手が犠牲になってしまいました。

これがきっかけになり、今では現地の労働環境や権利を守る様々な取り組みが進んでいます。が……それでもやっぱり何か問題が起きると一番弱いところに大きな被害が生じます。
つい数年前、コロナ禍はまさにそんな事態が起きる引き金になりました。

世界中で外出自粛やロックダウンが行われ、衣類の需要は激減。そのあおりがバングラデシュの縫製工場に「注文取り消し」や「延期」という形で襲い掛かります。
現地の工場では操業自粛や輸出オーダーのキャンセルも多発。その額はなんと、3億400万ドル!! にもなったそうです。

結果的に女性を中心に労働者の暮らしにも、現地の産業にも、甚大な被害が生じた上、国力自体が低下したことで今もなお工場の安定操業がままならず、困難な状況が続いていると聞いています。
(参考:「縫製品製造業・輸出業協会が工場再開のガイドラインを発表(バングラデシュ)」 ジェトロ)

アップサイクルプロジェクト【PHOENIX LAB. PROJECT 】

さて、まだまだ難しい状況が続くバングラデシュですが、「なぜ僕がそこに行くことになったか?」というと、サステナブルアウトレットモール「スマセル」が始動させた「バングラデシュ労働者の雇用と行き場のなくなったキャンセル品を救うアップサイクルプロジェクト」に参加することになったのがきっかけです。

このプロジェクトで僕は、「キャンセル品の息を吹き返し、モノの存在価値を上げるためのデザインを提供するデザイナー」としていくつかのキャンセル品のアップサイクルデザインをすることになりました。
ちなみに、プロジェクト名は【PHOENIX LAB. PROJECT】といい、「フェニックス(不死鳥)のように捨てられようとする洋服が再び復活するように」という願いを込めて、僕が命名しました。

が、「この服をいい感じにしてくれ」というオーダーがきたわけではなく、「どの服ならアップサイクルできそうか?」というところから目利きすることになり、その関係で現地に現物を見に行くべくバングラデシュを訪問した、というわけです。
バングラデシュで扱っているのはほとんど綿の衣類ということで、キャンセル品の中でも形が良く丈夫で状態が良く、アップサイクルに耐えられるものをチョイス。加えて、現地の縫製工場を見学して、実際に職人さんにも会ってきました。

バングラデシュと刺繍

バングラデシュで縫製工場や刺繍の腕を振るうひとの多くは女性たち。それも、主な農作物であるコメ作の時期が過ぎて農閑期を迎えたころを中心に、縫製の仕事をしているそうです。

これは昔からのことで、なかでも伝統的な刺繍の技術を用いて工芸品を作り続けてきた、というひとも一定数いらっしゃいました。実際に販売されている生地を見て、なかなか技術が高いな、と感じるほど。

そうしたこともあり、デザイン検討当初から、「誰もやっていなくて、かつ、バングラデシュの“味”を出せるように。価値を上げて再び着てもらえるように、どんなデザインをチョイスして組み合わせるかはデザイナーの腕の見せ所」と考えて、イメージを膨らませていきました。

今回、【PHOENIX LAB. PROJECT 】で僕が提案したデザインは30型ありますが、どれも「これをすべて手で刺繍したのか!」と驚いてもらえるようなものだと思います。

わずかな揺らぎやムラが味になるデザインが愛着を生むと考える理由

一針一針、現地の職人さんたちが刺繍したクラフトマンシップに溢れる洋服は、機械刺繍のような正確無比なものではなく、手作業ならではのわずかな揺らぎやムラが生じます。今回は「それがかえって味になって、温かみを感じる」となるように仕立ててもらっています。

ハンドワークでしか生まれない“揺れ”や“歪み”みたいなものがあるからこそ、お店で吊るされて並んでいる商品の中から「これがいい!」と思える“何か”を買ってくれるひとが見つけてくれると思いますし、ECで購入したひとなら「ここのところが愛おしい」というポイントを見つけてもらえるはず。
そうした“何か”があるからこそ、「大切に、長く愛着を持って着続けたい」という気持ちが芽生えるのだと思います。よかったら商品を覗いてみてくださいね。

すべてを救うことはできなくても、ファッションデザイナーとしてできることはある

ところで、この【PHOENIX LAB. PROJECT 】の30型ですが、多分日本国内ではどこにお願いしても「これはちょっと難しい…」と言われるような代物だと思います。
モノによっては総刺繍、そうでなくてもかなりの刺繍の量があるものを手作業で、しかも一定の水準に合致するものを量産するとなると、僕も縫製工場や刺繍ができる職人をたくさん知っているつもりですが、まあムリだろうな、と思います。

そんな難しい仕事をバングラデシュでできたのは、現地の職人さんたちの実力と、それをマネジメントするスマセルのスタッフたちがいたからこそです。

今回、バングラデシュの職人さんたちの仕事は本当に素晴らしいのですが、得意な刺繍パターンと工夫が必要な刺繍パターンがある、というのを知ったのも収穫のひとつ。
一部のデザインはなかなか苦心していたようで、「こうやったらできるんじゃないか?」「こうすればより刺繍しやすくなって、仕上がりもよくなるんじゃないか」と工夫してくれたとのこと。
そうやって、今回のプロジェクトがきっかけで現地の刺繍クオリティがまたレベルアップすると、こちらも「今度はこんなのができるのでは?」と、デザインに幅を持たせることができて新しいチャレンジができそうです。今後はもっと凝った「一点モノのすごいやつ」を作ってみるのもおもしろいかもしれません。

サステナブルの活動はきっと一歩一歩進めていくことだと思うし、「全てを救う」なんて相当難しく、それが実現できたとしても途方もなく先の話だったりするのだと思います。
また、「ここで終わり」という明確なゴールも設定しづらいのだと感じています。

だけど、何かできることはある。
今回、キャンセル品になって廃棄を待つ洋服に新たな息を吹き込み、モノの存在価値を上げるようなアップサイクルの取り組みに参加できたことで、そんな風に考えるようになりました。

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